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最高裁判所第一小法廷 昭和36年(オ)863号 判決

上告人 佐藤篤太郎

被上告人 佐藤博二

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

しかし、亡佐藤次機が判示発病前から被上告人を養子にしたい希望を持つており、その旨を代諾者である被上告人の父母に申し入れてその承諾を得ていたこと、本件届出当時なお養子縁組をなすに十分な意思能力とその意思を他人に伝達する能力を有していたこと及び右届出書は養親たる次機の真意に基き代書されたものであるとする原審の事実認定は、その挙示の証拠に照し首肯できなくはない。

また、養子縁組届書に届出人の氏名が代書された場合に、その事由の記載を欠いても、その届出が受理された以上、縁組は有効に成立するものと解すべきであることは、当法廷の判例とするところ(昭和三十一年七月十九日最高裁判所第一小法廷判決、民集一〇巻七号九〇八頁参照)であるから、原審のこれらの点についての判断にも違法はない。

されば、所論違憲の主張は前提を欠くものであり、論旨はいずれも採用し得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高木常七 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)

上告人の上告理由

一、原判決(控訴判決を称する以下も同じ)が上告人の主張とする「本件養子縁組は届出当時養父となつている訴外亡佐藤次機は永年の中風病で病臥し重態で縁組をするに足る意思能力を有しなかつたもので同人名義の部分は偽造にかゝはるものであるから同縁組は無効である」に対しその認定として(イ)「原審証人トキミ、太田マキ、大神正節の各証言原審及び当審に於おる控訴本人尋問の結果中に右主張に副い又はこれを推知せしめるが如き供述部分は後記各証拠と対照して措信し難く他にこれを認むるに足る証拠はない」とし次に(ロ)「尤も本件養子縁組届たる甲第三、七号証並びに原審証人佐藤トキミ、明智宗弘、佐藤次吉(第一回)の各証言によれば次機が昭和四年四月中風症のため倒れ爾来快癒しない儘死亡し右届出当時も呂律が完全でなく自署不能の状態であつた事実本件養子縁組届が次機と被控訴人の代諾者である父佐藤次吉、母同イワヨとの連署によつてなされ次機は福岡市に被控訴人及び其の父母は東京都に各在住し其の頃相互に往来したことのない事実を認め得るところであるが」とし更に(ハ)「前顕甲第一号証により認め得る次機が昭和四年九月三十日分家した事実及び前顕甲第三、七号証の次機名下の印影が同人の印章により顕出されたものであることにつき当事者間に争のない事実とて第一号(写真)並びに原審証人佐藤トキミ(前記措信しない部を除く)魚谷シヅ、富永久子、佐藤ユキ子、佐藤イワヨ、佐藤伝次郎、原審(第一、二回)及び当審証人佐藤次吉の各証言を綜合すれば次機は前記発病前被控訴人を養子にし度い旨を代諾者である被控訴人の父母に申入れその承諾を得ており本件届出当時なお養子縁組をなすに十分な意思能力と該意思を他人に伝達する能力を有していたこと及び右届出書は養親たる次機の真意に基き代書されたものであることを窺知し得るところであつて前記次機の病気等に関する諸事実は右控訴人の主張事実を肯認する資料とはなし難い」として上告人の控訴に於ける該主張を排斥した。

二、しかしながら改正前の民法当時の縁組であつてその頃の養子縁組の趣旨とするところは(A)既に相当の年令に達しながら到底実子を得る希望なきに至りたる場合に限り許すべきものとする精神に基くものであり又(B)縁組の届書には代署を許さないものでありしかして本件では右(A)については実子として上告人が居り(B)については前記(ハ)認定のように縁組届の氏名は代署であり随つて以上の点からも本件養子縁組は無効である原判決は(ハ)に於て当事者間に於て縁組届の次機の名下印は同人の実印であることは争がないと云うことであるも同印は他の要件入用のため上告人保管中の次機の実印を隣家の次一(次機の実兄)が上告人より借受け(主として債務の保証)たものを擅に縁組届に使用されたものであつて原判決が前記(イ)(ハ)認定につき採証にかかはる乙第一号の写真は被上告人の母訴外佐藤イワヨが被上告人を連れイワヨの実方である呉市に来た際上告人方を訪問したときの東公園藤棚の下で写した写真で証拠となるべきものでないし証人右佐藤イワヨ及その夫佐藤次吉は本件養子となつた被上告人の実父母で縁組の代諾者であり争うところも縁組届の偽造であるから両名は真実を証言する筈がないいわゆる虚偽の証言でありよつて原判決は少くとも採証を誤つて認定した違法もありことに上告人は実父次機とは出生から死亡当日迄同居し次機中風症となるや医療並枕下に付添看護扶養一切を行い死亡については葬儀一切を行い養子と云う被上告人もその父母たる次吉夫婦も次機も皆この永い間被上告人が次機の養子となつていることを上告人に告げたことなく右被上告人及次吉夫婦も右葬儀にも他人然としていたものであつてこの点からも縁組などある筈なきことが窺い知られるよつて原判決が縁組を有効として控訴棄却したるは無効の判決であつて次機の実子としての上告人の身分関係に伴う安定を侵し自由と幸福の追及の権利を尊重しない又公共の福祉をも侵害する憲法第十三条に違反するものである。

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